Humanity

トンネル

列車に揺られ、 どれくらい時間が経っただろうか。 夢から覚めた僕は列車がトンネルに入る音で、 ようやく自分が列車に乗っていることを思い出した。 周りの景色は真っ暗で何も見えない。 これなら夢の世界にいたほうがましだった。 そう思い再び眠りにつこうと目を瞑ったが、 ずいぶんと寝てしまったせいか眠れない。 こうなってしまうと、 いつもは子守唄のように感じる列車の揺れや線路の音が邪魔に感じた。 僕は眠るのを諦めて、 窓の外の暗く、 何も無い空間をただ眺めていた。 そうしていると、 いつの間にか忘れていたことや、 幼い日の小さな思い出などをいつのまにか思い出していた。 今まで一度も思い返したことのない記憶や思い出したくない記憶など。 かたん、 という電車の揺れで、 窓枠にかけていた肘が落ち、 体がかくんと下にさがった。 そこでふと、 我に返った。 随分時間が経ったと思ったが景色はまだ暗いままだった。 星空も街の光も見えない。 暗闇の中。 まだ、 トンネルのなかだろうか。 長い長いトンネルの中、 いつまでたっても陽の光に照らされることはない気がしてきた。

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